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LINEでは、こうしてます。

なぜLINEが検索事業をやるのか?(前編)

LINEは、2019年に開催した事業戦略発表会「LINE CONFERENCE 2019」で統合検索サービス「LINE Search」を発表しました。LINE Searchは、単なるLINEの機能強化ではなく、LINEを介した新しいインターネットの形づくりに取り組んでおり、LINEグループの中でも今後の注力領域の1つとして取り組まれています。

そのLINE Search=LINEの検索事業への挑戦について、Searchセンターの副センター長を務める上級執行役員の島村武志に根掘り葉掘り聞きました。今回は、島村の想いや考えをできるだけ「生」で伝えられればということで、ほぼ書き起こし状態でまとめてみました。

このインタビューは、前編・後編の2部構成でお届けします。前編となる今回は、LINEが検索にかける想いを中心に話をうかがいました。

後編はこちら

日本における検索サービスはすでに「絶滅種」。あえてその領域でメインフレームを立ち上げる。


ーー今回の趣旨は、「
LINEが検索をやる意味」を聞くことです。ただ、LINEの社員でもその意味や価値をちゃんと理解できている人は多くないと思っています。そして、明確・簡潔に言い表せるものでもないのかなと。なので、島村さんの生の想いを教えてもらいながら、少しでも理解に近づけるようにしていきたいと思っています。

島村

はい、検索というものは一言で簡単に語ることができない、非常に多面的なことが多いので簡単には終わらないし、まとまらないです。意味を語る上で、まずスタートはどんなところにこのチャレンジの魅力があるかというところだと思うんです。検索という事業を「なぜやるのか」「どうやるのか」ももちろん大事なんですけど、やること自体がとにかく魅力的なチャレンジである。これが最大の価値だと思います

どんなことが魅力的かで言うと、そもそも検索エンジン・検索サービスが日本の中で既に絶滅種なんですよ。これは意味合いとして語りますが、一言で言うと、日本には検索エンジンがないんです。ここで言う検索エンジンというのは広義なインターネット検索のことを指します。普通のデータベース検索的な仕組みとか、細かいバーティカルなものを検索するようなものはもちろんあると思うんですけど、エンジンの仕組み自体は日本で作っているものはもうほとんどないんです。

昔だと、様々な国内のプレイヤーが取り組んでいた時代もあり、ヤフーさんも元々自前のエンジンを持っていました。ただ現状、それらは全部なくなり、実質的には全てGoogleのエンジンを採用している。車で例えると、昔はホンダとかトヨタとか日本発のメーカーとかいろいろあったけど、今はフォルクスワーゲングループのシャシー台を、みんなが使っている状態になったみたいな感じ。ちょっと分からないか(笑)。

ーーつまり大事な部分は外から供給を受けてしまっているということです?

島村

日本の検索で言うと、いろいろなスタイルがあるんですけど、メインのアーキテクチャはGoogleを使っているんです。そもそもそこに競争がない状態で、多様性も損なわれているけど、検索というのはとてもお金がかかる。開発コストなりチューニングなり、使えるようにすることに膨大なコストと労力がかかるものなので、それを自分たちでやっていって維持するだけの規模、サイズを、なかなか維持できない。

そういう中で、プロダクトの国際化がどんどんと進むわけです。今や、日本のサービスのほとんどが、フレームワークとしては海外のスケーラビリティーのものがそのまま入ってきていることが多いですよね。Amazonしかり、Appleしかり。メインフレームとしてはもう立ち行かないからサブフレームで戦おうぜという、今の日本のインターネットのサービスとかマーケット全体がそういうメンタリティーになっている部分があると思っています。

ーーコアで勝てないから、アレンジで勝負みたいな感じですか?

島村

そう。サブルーチンとかサブフレームですよね。そういう中でLINEは、前身のNAVER時代からもっと他の可能性を追求したいという思いから始まっているのが、我々のルーツだと思うんです。インターネットにおけるメインフレームとして、グローバルなものではないものを立ち上げようとしているのが我々なんです。例えば、メッセンジャーを立ち上げたところの気概や考え方もそうだと思うんですけど、みんながSkypeを使っている前提でもっと便利に使えるようなサブフレームの企画を立案するとか、展開することを考えがちじゃないですか。我々の考え方は、Skypeというメインフレームではない自分たち独自のメインフレームの可能性を追求する会社なんです。

そういう意味で、何もないところから2009年に検索サービスの「NAVER検索」を始めたときから変わっていない。サブフレームを作ってそこで上手くいけばいいという考え方ではなくて、メインフレームを立ち上げたいという志が強い会社です。これは結構重要なポイントだと思っていて。つまりLINEが検索をやる意味を言ったときに、検索という言葉が付くサブフレームのサービスを作りたいわけではないんです。 メインフレームたり得るコアから全てを作ろうというプロジェクトなんです。

「ググる」との戦い。何か知りたいときに一番に思い浮かぶサービスになりたい。

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島村

インターネットはいろいろなシーン、ソリューションがあると思うけど、人との接点という面で考えたときには、大きく言うとプッシュ型とプル型しかなくて。この2つのうち、プル型を検索エンジンと表しているわけです。

検索エンジン、検索サービスを作ることで何を目指しているかと言うと、人々が何か知りたいと思ってプル型のアクションをするときに、第一想起になることなんです。そして今、大変残念なことにそれを表す言葉が「ググる」になってしまっているほど、何か知りたいというニーズを満たす場所は、現状ほぼ全てGoogleであり、そのルールに基づいて情報接点が作られています。

ーー今だったら、生活様式的にそれがYouTubeになっている人もいるし、Instagramになっている人もいる。その大元で何か知りたいなというときに、取りあえず無意識に開くみたいなものとか、さっきの「ググる」みたいなことですよね。

島村

そうです。「ググる」というのがもう動詞じゃないですか。日本語として動詞になっているわけですよ。Googleが日本のプル型の情報摂取において、完全にメインフレームになっているんです。これに対する挑戦がLINEの検索の挑戦です。

実は、LINE Searchという言葉は、ちょっと語弊があると思っていて。言語学的に考えると、LINE Searchという言葉は、LINEの中の何々という意味じゃないですか。ですが、もともと私たちが検索に求めている世界は、本当はLINEの中には留まらないんですよね。 やろうとしているサービスは、LINEの中のコメントやメッセージを探せることにも対応しますが、もっと広い大きいことを考えています。何かを知りたいと思ったら、今は無意識に裏側が何であるかも分からずにGoogleを使っていますよね。こうした状況で戦っていこうという、傍から見ると無謀な戦いののろしなんです。打倒・秦、秦の始皇帝を討て、みたいな感じです。

だから、「LINEが」という主語からものごとが始まると、実はすごく恣意的だとも思っています。もともと持っていた志なんです。何かを成すときには、拠点がなければ立ち行かない。その拠点に成り得るのが「LINE」アプリです。でも、目標は何かと言ったら、中華統一です。蜀を強くしたいという話ではなくて、あくまでも中華統一したい人たちが、大志を叶える勝機を見出している拠点が「LINE」です。そもそも「LINE」があってのLINE株式会社であることは事実なので、これを理解してもらうのはすごく難しいと思います。

ただ、「LINEがやるSearchとは何か」と主語が固定された瞬間に、本来の意味と違ってくると思うんです。「LINEの価値を生かしてどうするのか」という考え方より、「検索のメインフレームに挑戦するためにLINEという資産をどう活用するか」という考え方の方が、実は真実に近しいんです。最終的には、もともと検索というメインフレームをやりたかった会社だということに行き着くんです。

検索の概念を変えていきたい。

ーーコンテンツ側にも責任を持つというか、コンテンツをどう見せるかみたいなところも考えていくんですか?

島村

そうです。Googleは、最近のトレンドによって少しずつ変わりつつありますが、伝統的にコンテンツの中身にはこだわりを持たないですよね。だから、入り口としてGoogleから探したけど、買う場所はAmazonですとか。最後に提供されるソリューション、コンテンツは別のものですよね。これは全ての産業の進化の仕方とすごく似ていると思います。例えば車造りでも、全てのパーツを自社で作ることはしなかったはずなんですよね。エンジンはどこどこ産のエンジンをもらって、シャシーはどこどこのメーカーからかベースのやつをもらってきて、上の塗装を変えて、完成したのがうちの車ですと出すことが多いんですよね。

でも、最適化を目指してより高度な体験を追求すればするほど、その2つの相関性のシームレスさがすごく大事になります。そうすると、検索して飛んだ先は自由ですという瞬間に、一貫性を持った体験ができなくなる部分がある。我々は、この体験の一貫性の責任を負うべきだと思っていて、そしてそれを先に実現しているのが韓国のNAVERなんです。

実は今、ECとして韓国で一番伸びているのもNAVERらしくて。昔はNAVERもショッピングSearchと言って、Qoo10などの巨大ECモールを探すところから始まっていました。でも現在は、直接出店できるECモールを付けて、出店するとすぐにNAVER検索に反映されるような、検索とシームレスにつながったECシステムを作っていて、体験の一貫性がすごいです。

今も進化を続けていて、コンテンツと入口・出口のつなげ方がより高度になっています。検索から飛ばして終わりではなくて、中にコンテンツが存在して体験できる。検索してページをクリックしなくても、全部が並んで見えているなど、従来型の検索という概念を変える在り方が一つの形になっている。我々が目指すのは、決してNAVER検索の日本版を再現することではありませんが、目標にできる世界が築かれています。インターネット業界に関わる方なら、NAVERが作っているインターネットを一度見ておいた方が良いと思いますよ。

繰り返しになりますが、我々が実現したいことはずっと変わっていません。チャレンジの意義は、「LINEは人と情報の接点を、検索というアプローチから再定義する」ということ。それに本気で取り組むマインドがあって、検索領域における知見や開発などの自力があります。現時点で少しでも実現性を持つ会社はLINEだけです。まずは、Googleじゃない選択肢を世の中に提供すること、そしていずれはひっくり返すことを本気で狙っていきたいと思っています。

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ーーGoogleではない第2の選択肢を作ることが、ユーザーやインターネットにとって必要だと考えているということですかね?

島村

極端な話、「LINE Search」以外にもあったらいいんですよ。そこが競争しあったら一番いいじゃないですか。 第2、第3はあるべき、なきゃいけないというかそれは万物の法則としてそうなんです。必ず古きは新しきに取って代わらなければいけないし、逆にインターネット業界が、今、それを難しくしつつあるんですよね。流通網としたら地の利とか状況が働いて、別々のカルチャーが生まれる。それこそ世界の中でいろんな国の文化がなぜ存在するのかって言ったら、地の利で分かれているからですよね。

だけど、インターネットってそれが全く無視され、メリットでもあるんですけれど、逆にいうとデメリットなんですよ。地理的関係性が一切関係なくなっちゃうんですよね。ヨーロッパの果てで話が出たことが、その日のうちにアジアの極東で受信できてしまうわけですよ。それがインターネットの最も難しいところで、最も魅力的なところでもあるんですけれど。だからこそ、勝っている強いところが総取りしていく、別々の文化ごとに受容できない。中国みたいに遮断したら別ですよ。別のカルチャーが実際育っていますよね。規模大きいから、そこそこの経済圏で成立しちゃっているところが特に特異...。中国の成功事例を見ても、アジア、他の国でそのまま使えないよというのは、まさにその話ですよね。

後編に続く

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桃木 耕太

2013年にLINEに中途で入社、今は開発組織と採用組織でWebサイト/コンテンツやイベントの企画/制作などをしてます。