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アスリートのちから

車いすバスケ:北田千尋選手が語る「今の積み重ねが未来をつくる」

LINEでは世界に向けて羽ばたくアスリートの活動を支援しており、7名のアスリート社員が在籍しています。 今回は、東京2020パラリンピック競技大会に車いすバスケットボール女子日本代表として出場した北田千尋選手の「報告会」の様子をダイジェストでお伝えします。

この報告会は北田選手から、自分の経験をLINERに伝えることで会社に貢献したいという申し出があり企画され、当日は100人以上のLINER(LINE従業員)がオンラインで参加。事前に「パラリンピックに出場した感想」、「選手村の様子」、「今後の目標」などLINERから多くの質問が寄せられ、それらを北田選手にお話ししていただきました。

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北田 千尋(きただ ちひろ)
2016年4月1日LINEアスリートとして入社。パラリンピックは初出場。 進行性の末梢神経障がいである多発ニューロパチーによる両下肢機能障がい。
バスケの指導者になるために進学した大学でのインターンシップ先で車いすバスケと出会い、車いすに乗れば「走れる」ということに魅力を感じ、競技を始める。
高さのあるリバウンドとシュート力を兼ね備え、2014年の世界選手権で初めて代表入り。クラブチームの日本選手権でMVP(最優秀選手)に4回選出。
東京パラリンピックでは全6試合で、日本代表チーム内最多の得点を記録した。


北田選手のTwitterアカウントはこちら

東京パラリンピックに至るまで

ーー東京パラリンピックお疲れ様でした。

皆さん、たくさんの応援ありがとうございました。 初めてのパラリンピックでしたが、私自身はそこまで緊張しませんでした。この報告会の方が100倍緊張しています(笑)。

結果は6位で、ニュースなどで大きく取り上げられることはありませんでしたが、日本の車いす女子バスケは、2008年の北京パラリンピックから2大会連続で予選敗退し、世界大会に出場できていない状況だったので、2試合に勝ち、予選リーグを突破して準決勝に進めたことは大きな進歩だったと思います。また、今持っている力を全て出し切るという私自身の目標もやり切れたと思っています。

ーーQ.東京パラリンピックに至るまでの道のりを教えてください。

私は2015年のリオデジャネイロパラリンピック予選にも日本代表として参加しました。当時はフルタイムで働きながら競技をしていました。 会社の体育館を使わせていただき、朝6:00から8:00まで体育館で練習し、仕事をして、終業後に片道1時間半かけてチーム練習に行くという生活でした。

睡眠時間は5時間取れればいい方で、仕事以外の時間は全部バスケットに費やしたという自信がありました。その自信を持ってリオデジャネイロパラリンピックの予選に臨みましたが、チームは敗退。自分自身も試合ではあまり使ってもらえなくて。世界の壁は厚いし、日本の中でも圧倒的な選手になれていないとを実感しました。

東京パラリンピックを目指すことを考えた時に、そのまま働きながら競技を続けるか、アスリート一本に絞るかを悩みました。働いていた企業に感謝の気持ちもありましたが、一生に一回しかない東京パラリンピックですし自分の人生なので、後悔はしたくないなと思い、アスリート雇用という形で就職活動をして、ご縁あってLINEの仲間となりました。

LINEに所属して、まず私がしたのは海外でプレーするということでした。オーストラリアはロンドンパラリンピックで男女共に銀メダルを取っており、とてもレベルの高い国。その中でもオーストラリア代表男子の中心メンバーがたくさんいるチームにコンタクトをとり、練習に参加させてもらいました。

英語はほとんど喋れませんでしたが、行けばどうにかなると考えて、日本からシェアハウスと自分が乗れる車を探して、オーストラリアへ旅立ちました。結果としてオーストラリアで3シーズンを過ごすことになり、英語もいつの間にか日常会話程度は話せるようになりました。

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オーストラリアのチームでプレーする北田選手

1年の延期は自分を高めるチャンスと捉えた

ーーQ.パラリンピックが1年延期となり、どんな思いで準備なさっていましたか?

正直ラッキーと思いました。1年前の自分は、まだまだ成長できるけど時間がないという状態だったので、 延期が決まった時に「より良い状態で東京パラリンピックのコートに立てる」とプラスに考えました。

コロナ禍での練習については自宅でできるトレーニングと、自宅のある滋賀県の山々をタイムトライアルしながら駆け回るという、マラソンランナーのようなことをしていました。

元々、人付き合いが得意なタイプではなく、家に籠ることが多い方だったので、自粛期間は自分と向き合うことができたと思います。だからこそ、東京パラリンピックで全部出し切るという目標を達成できたのかなと思います。

ーーQ.パラリンピックの雰囲気はどうでしたか?

国際大会自体が約2年ぶりで、大きな会場で試合をするのも久しぶりだったので、すごく気持ちよくプレーできました。

ボランティアの皆さんがコロナの感染対策として、ボールを一球一球拭いてくださったり、手すりの清掃など、コロナがなければしなくても良い業務をしてくださっているのを見て、皆さんのおかげでこの舞台で試合ができているんだ、と実感しました、勝っても負けても変わらない拍手をくださったボランティアの皆さんに本当に感謝しています。

スポーツとして見てもらえる事が嬉しかった

ーーQ.パラリンピックの結果についてどう感じていますか?

今後に繋がる結果は出せたかなと思います。というのも来年世界大会があるのですが、今回のパラリンピックで中国が2位、日本が6位になったことで、アジア・オセアニアゾーンから世界大会に出場できる国の数が本来の1枠から2増えて合計3枠になり、日本にとっては出場できる可能性が増えました。

また世界のライバル等も日々アップグレードしていっており、その情報や感覚は世界大会でしか味わえませんし、正直世界大会に出続けないと、本当にパラリンピックでメダルを獲ることは難しいと思います。その世界大会に出続けるための、最低限の結果が6位だったので、今後につながる結果だったのかなと。

また今回、私が一番嬉しかったことは、勝てば称賛され、負けると厳しい言葉で報道されたことです。私が車いすバスケットを始めた時、記事が掲載されるのはスポーツ欄ではなく、社会福祉欄でした。障がい者のバスケットはスポーツとして見なされていなかったんです。でも東京パラリンピックが開催されて、私たちのことをスポーツ選手として見てくれる方や、試合を純粋に競技として見てくれる方が増え、その点がとてもモチベーションになりました。

朝起きてすぐ、自分の心の声を書く

ーーQ.普段の一日の過ごし方を教えてください。

今チーム練習がある日のスケジュールをお伝えしますね。基本的には5:30に起きてます。 朝起きてすぐ、白湯を飲みながら心に浮かんだことをひたすら書くことが習慣です。

日記を夜に書く方も多いと思いますが、私は寝ると忘れてしまう事よりも、起きても心にあることが重要だと個人的に思っているので朝に自分の心の声を1ページほどノートに書くようにしています。

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毎朝心の声を書き込むノート

その後にヨガやピラティス、体幹を1時間程度こなし、8:30にはジムか家でトレーニングを開始します。体調や睡眠時間によってはトレーニングをオフにすることもあります。

夕方からのチーム練習の場所は大阪で、移動には自宅から2時間程度かかります。22:30に練習を終えて帰ってきて、23:30には寝たいのですが、最近は洗濯機の調子が悪くて、そのせいで24:30くらいに寝てますね(笑)。

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普段の一日のスケジュール

今の積み重ねが未来をつくる。

ーーQ.アスリートとして、技術や体力のためのトレーニングはとても大変かと思いますが、今日は練習したくないな、と思うことはありますか?その時にやる気を出す方法を教えてください。

疲れすぎてモチベーションが出なかったりして、練習したくないことはよくあります。 でも、行かなかったら夜寝る前に後悔すると思うんですよ。だから、「とりあえず、やる」ということを心がけています。

とりあえず練習にいく、少しでもいいからバスケット用の車椅子に乗ってみる。そうすると、自然と脳のスイッチが入ってどんどんやる気になっていきます。その結果、充実したトレーニングができて、一日を満足して終えることができます。

仕事も多分同じで、手をつけたくないなと思っていても、取り掛かったら急にスイッチ入ることがあると思います。一日の満足のためにとりあえずやるという感じですね。

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トレーニング中の北田選手

ーーQ.技術や体力はもちろんのこと、メンタルも常に保っておく必要があるかと思います。ストレス解消方法や集中したい時に行っていることを教えてください。

私がやっているのは未来のことを考えないこと。例えば試合に負けたらどうしようとか。仕事で言えばプレゼンで失敗したらどうしようとか。そんな不安の大部分は、未来のことを勝手にイメージすることから始まっていると思っています。自分の体は現在にあるのに、思考だけが未来へ向いているというミスマッチが起きていて、それがストレスになっているんですね。例えば、フリースローを打つ前に、入るか入らないかを考えるのではなく、審判から受け取るボールの手触りに集中する。今の積み重ねが未来に繋がり、未来をつくるので、未来のことを不安に思うよりも今を大切にした方がいいと私は思います。

もちろん大きい不安でどうしても今に集中できない時もあります。そんな時は自分の呼吸に耳を澄ませるようにしています。講演会の前でも、試合の前でもそうやって、今の自分に心を宿した状態で臨むようにしています。

ロサンゼルスパラリンピックで金メダルを

ーーQ.今後の目標を教えてください。

今回の女子の決勝で、目の前で金メダルが決まる瞬間を見て、「パラリンピックのメダルが欲しい」、「この場所でメダル争いをするプレーがしたい」と、強烈に思うようになりました。

2024年のパリパラリンピックに向けてももちろんメダルを目指しますが、あと3年しかないので、そこに最高の自分を持っていくのは難しいと思っています。なので2028年のロサンゼルスパラリンピックで金メダルを取って終われたらという7年計画を勝手に立てています。

もちろん日本代表に選ばれなければ、その舞台には立つことはできませんが、できる限り頑張ってみようと今は考えています。

ーー最後にLINERの皆さんに一言お願いします。

今後も皆さんの仲間として、私の活動やお役に立てる話を発信させていただきたいと思っています。これからもどうぞよろしくお願いします。

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斉藤 幹晴

PR室で社内広報を担当。2004年にライブドア(現LINE)入社。メディア事業部でスポーツ、映画などのニュースサイト、コンテンツ作りに携わる。現在は社内報の企画編集などに従事。趣味は音楽鑑賞(ジェイコブ・コリアー)、読書(「うしろめたさの人類学」)、自転車に乗ること。