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Growth Story

MAとしての間口を広げる「ステップ配信」のプロダクトマネジメント、企画背景と工夫したポイントとは?

LINEの中でも歴史が長く、既に大きなユーザー規模を持つようなサービス・事業にスポットを当てる「Growth Story」。

今回は、毎月約33万アカウント(※)もの企業・店舗がユーザーとのコミュニケーションに活用している「LINE公式アカウント」において、2021年2月に提供開始された「ステップ配信」機能開発のPM(プロダクトマネジメント)を担った佐々木に企画に至った背景や工夫したポイント、今後の展望などを聞きました。社内の営業担当、代理店、クライアントの運用担当者など関係各所からのヒアリングを重ね、スピーディに実装に至った経緯を語ってもらいます。(※アクティブアカウント:認証済みアカウントのうち、月に1度以上機能を利用しているアカウント数)

佐々木拓洋:2016年4月にLINEに新卒入社。法人向け商品の企画を担うビジネスプラットフォーム企画センターで法人向けカスタマーサポートサービス「LINE カスタマーコネクト」 の立ち上げや LINE公式アカウント内の機能「オーディエンス配信」の企画など、B2Bプロダクトの企画、開発推進を進めながら、LINE公式アカウントのエンタープライズ領域における中長期戦略策定にも携わる。

ーーステップ配信とはどういう機能でしょうか?

企業・店舗向けLINEアカウント「LINE公式アカウント」において、友だち追加したユーザーに、あらかじめ用意した内容・タイミング・期間でメッセージを自動配信できる機能です。追加してからの日数やユーザーの属性情報に合わせて配信内容を設定しておくことができます。

企業目線では、友だち追加などユーザーのアクションを起点に、事前にクライアントが管理画面から設定していたメッセージ群を順番にシナリオ配信できる機能となっています。メールマーケティングの「ステップメール」と同じコンセプトですね。そのため、友だち追加後の早期タイミングで、商品・サービスへの興味を喚起するコンテンツを漏れなく配信してブロック防止を狙ったり、継続してメッセージ配信を行うことで、商品・サービスに対する認知の定着を狙うことが出来るようになりました。

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高度な1to1マーケティング実現に向けた、LINE公式アカウントのMAツール化

ーー企画するに至った背景を教えてください。

一言でいうと、 LINE公式アカウントのMAツール化です。LINE公式アカウントは、メールよりも開封率が約2倍という数値もあり(※)、非常に効果の高い顧客チャネルです。かつLINEというパーソナルツール内で友だちになるという情緒的な性質上、友だち追加後にどのように関係構築し、いかにブロックを阻止するかという観点も重要なポイントになります。

そのような特性を持つ中、以前よりクライアントからご相談として、「友だち追加後の日が浅いタイミング、またはLINE公式アカウントに対して何かしらのアクションを行った直後にユーザーの関心がもっとも高く、そこで適切にアプローチすることで、エンゲージメントを上げられるのではないか?」という声を頂いていました。当時より、該当のLINE公式アカウントを友だち追加することによってLINEスタンプを無料ダウンロードできる広告メニューなど、ユーザーとの接点をつくる手段は提供できていました。

しかし友だち追加後、ユーザー1人1人との関係値を考慮しながらメッセージ配信を行い、エンゲージメントを最大化する運用を従来の管理ツール上の機能のみで行うことは難しい状態でした。例えば「あいさつメッセージ」という友だち追加した瞬間に配信されるメッセージ機能でリテンション訴求を行うことは可能ですが、それ以降例えば友だち追加からの経過期間・期間中のエンゲージメント数等の条件に応じたリテンション施策を効率的に行うことは、利用する個々の企業や担当者の工夫や対応が必要で、正直ハードルが高い環境でした。

そこで、友だち追加後の数日ないしは数週間にわたる長いスパンでのメッセージのプランニングおよび配信が出来るよう、この機能を実装することを決めました。これまでもAPI連携やパートナー企業のツールを利用すればステップ配信を実現することはできました。

その中で我々が今回の機能を提供する目的としたのが、追加コストなしで本機能を通じてLINE公式アカウントの効果をより簡単により高く実感してもらい、そこからより高機能な配信を行いたい場合は自社開発、またはパートナー企業ツールを通じて施策を実現していくというオンボーディングフローを作ることです。高度な1to1マーケティングへの入り口になる機能という立ち位置を意識しました。 (※2021年11月1日-2021年11月30日の全カテゴリメッセージを対象に抽出したデータとBENCHMARK EMAIL社メルマガ平均開封率レポート2020年版を比較)

ROI向上を運用コスト削減を通してサポート

企画を進めたもう一つの側面は、運用コストの削減によるROI最大化です。もともとは最もユースケースが多く、同じタイミングに同じ内容のメッセージを配信する「一斉配信機能」を改善しようと、ターゲティング配信やABテスト配信を通じた配信最適化を考案していました。

しかし、代理店やクライアントへのヒアリングを通じて、実際に運用を行うなかで発生する煩雑なオペレーションと、それによって発生するコストの高さについての課題意識が大きいことがわかりました。これらの課題は従来の一斉配信機能の延長線上にある改善では解決が難しいものでした。例えば、一斉配信だと常に新しい投稿内容を考えて都度設定しなければならないため、配信の新しいネタがない月には配信を一切しないというケースも散見されていました。そこでステップ配信では、配信ごとに発生する新規クリエイティブ作成・配信予約オペレーションの運用コストを削減し、最終的なクライアントのROIを上げることを目指しました。

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スコープを絞り初期リリースを3か月短縮

ステップ配信の開始トリガーとして、利用企業のニーズが高いユーザーアクションは主に、友だち追加、過去配信メッセージのクリック・開封状況、自社ウェブページ上へのコンバージョンなどいくつかの候補がありました。

一方で、初期リリースではスケールさせることを目的にせず、早期にクライアントニーズの検証・事例創出を行うことに主眼を置いていました。スピード・ニーズ検証・事例創出を優先させるための検討を重ねた結果、初期リリースではステップ配信の開始条件として設定できるユーザーアクションの種類を「友だち追加」だけに絞ることにしました。ヒアリングやユースケース検討を進める中で、このアクションで7-8割の初期ユースケースはカバーできると判断しましたため、初期リリース時期を3~4ヶ月早められました。

今回は、事例を作り出すために、ステップ配信機能のニーズが高いと見込める、ECなどのWeb上で購入が完結する業態のクライアントをメインターゲットに置くことにしました。オンラインでのコンバージョンがわかるビジネスモデルなので、オンラインからの流入の最適化が分解できる体制が整っていること、また、デジタルマーケティングへの理解が深い担当者や体制があることが多く、活用シーンを具体的にイメージしてもらいやすいのではという理由から、初期事例をスムーズに創出できると想定しました。

ーー開発にあたり、苦労した点はどこでしょうか?

UI Componentを新たにゼロから作成したことですね。ゼロからUIを作るかどうか、UIの策定には一緒に進めていたメンバーと非常に悩みました。LINE公式アカウントのフロントエンド開発にはkoromoという社内で開発されたデザインシステムを採用しています。通常の開発では、koromoのライブラリに含まれるUI Component を使って画面を作成していきます。

しかし既存の Component にはフォーム形式のような静的なUIをサポートするものが多く、ステップ配信のような複雑な設定を要する機能には適していませんでした。ステップ配信では開始条件・開始後のユーザー属性に応じた分岐・メッセージの内容・メッセージが送られる順番などの多くの要素を、俯瞰・ディテールと交互で捉えながら配信設定を行えるようにする必要がありました。それを実現するためにゼロからUIを作成する必要がありました。

また、少しでも導入・運用ハードルを下げるために、LINE公式アカウントの企業の運用担当者にとって設定方法が分かりやすいようにと、インタラクティブなUIにすることもこだわりました。 まずは、メール配信で使われるような既存のMAツールを参考に、機能のベンチマークをプロジェクト内のPMで作り、それらのUIでの表現方法を分析しました。新規で作っていくデザイン・システムも既存UI Componentと整合性が取れるよう調整するのには少し時間がかかりました。

また、ユーザビリティ検証を優先するため、通常とは違う手順でデザインを作っていきました。通常は「企画メンバーが画面デザインを作る→開発チームがマークアップ作成→サーバーとのつなぎ込み」という流れで実装してくため、サーバー接続されて初めて動作確認ができます。しかし今回は「デザイン⇔最低限のサーバー接続」を往復することで動作確認を通じて新規作成・既存シナリオ編集などシチュエーションに応じたユーザーフローを満たせるUIになっているか検証し、デザインを確定させていきました。適宜サーバー通信を行って情報を保存する箇所もあったため、その実現方法は開発メンバーと都度相談しながら、仮のAPIを作って解決していきました。

ユーザビリティテストは、まずComponentごとに Beta環境で動作するモックを作って、実際に手元で動かせるようにし、企画背景を知らない社内メンバーに対してテストを行いました。ロールプレイング形式で、指定した業界に所属する企業のLINE公式アカウント運用担当者役として、実際に配信設定を行ってもらいました。そして、設定後にどこでつまづいたかなどを細かくヒアリングしました。例えば、「該当箇所をホバーしないとメッセージ追加用のボタンが表示されないのがわかりにくい」との意見が出たため、マウスを画面上で動かすと追加用UIが表示されるようにするなど改善を重ねていきました。

友だち追加後の定着率6.5倍の事例も創出

ーー実装して反響はいかがでしたでしょうか?

事業KPIとしては、前述の通り、まず事例化案件のスムーズな創出に焦点を置きました。社内で定めたいわゆるナショナルレベルを含む既存クライアントの500社以上のターゲット企業に対して10~15%に利用いただくことを目標としていたんですが、無事達成することができました。

当初ターゲットとしていた大型クライアント以外にもSMB(Small and Medium sized Businesses)や、タイや台湾のアカウントにも幅広く使われ、手応えのある出だしとなりました。新たな機能が導入されることで従来の配信方法からシフトし、全体のメッセージ配信数の減少に繋がらないことの懸念もありましたが、既存の利用に追加する形でステップ配信を使っていただけたので、配信数も純増させることが出来ました。また、分かりやすいUIにこだわった点についても、導入いただいたクライアントからの操作性に関する問い合わせが少なく、ユーザービリティの高い管理画面が作れた手応えを感じています。

ステップ配信を利用した、コスメ系クライアントのLINE公式アカウントでは、スポンサードスタンプで友だち追加したユーザーに対して、数日後に「〇日に(スタンプで起用したクリエイターの)壁紙をプレゼント!」と告知して壁紙を配信するという施策を行った結果、その後の定着率が通常の6.5倍になったという事例が出てきました。期待していたエンゲージ向上に繋がった事例も出てきたため、今後の機能の利用訴求ポイントの一つとしていきたいと考えています。

一方で、今回クライアント側ではテストとして利用してくださった側面が大きく、継続利用率が当初の想定を下回っていました。スコープを絞ってリリースした結果、限られたユースケースしかカバーでできていないこと、それによってクライアントへの運用改善提案が難しかったことが原因の一つと考えています。今後の新機能のリリースに加え、社内営業組織とのワークショップなどを通じて、社内営業メンバーへの連携の強化を企画しているところです。

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ーー今後の展望をお願いします。

ターゲットクライアントの仮説が検証できたため、イベント登壇・事例記事・セールスマテリアルの充実化等によって、マーケティングのアクセルを踏んでいきたいと考えています。同時に、初期リリースからはスペックアウトした過去配信へのクリック、ウェブコンバージョンなどのユーザーのアクション条件の種類を追加していき、より多くの企業に利用いただけるよう開発を進めていこうと思っています。また、有用な配信手法であることが立証できたので、簡易的に設定できるようにするなど、SMBやLINE公式アカウントの導入・運用初期企業の担当者向けの機能改善も加えていきたいです。

また、より大きな視点での展望でいうと、MAに限らずデータ収集・CRM・顧客分析等、デジタルマーケティングに必要な基本機能をすべて提供し、ワンストップで1to1マーケティングを行えるようなプラットフォームを提供することも視野に入れています。

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具体的には、現在は配信設定に関わる機能を主に提供していますが、これに加えてクライアントデータベースとの連携、分析機能などを提供することで、LINE公式アカウントのみで高度なマーケティング活動を行える将来像を検討しています。

すでにある高開封率な顧客チャネルという特性に加えてこれらの機能をご提供することにより、LINE公式アカウントのポテンシャルが最大限引き出せるようになると考えています。それと同時に、シンプルなワンストップソリューションを提供することで、企業にとって1to1マーケティングがより身近なものになれば良いなと思っています。

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桃木 耕太

2013年にLINEに中途で入社、今は開発組織と採用組織でWebサイト/コンテンツやイベントの企画/制作などをしてます。