徹底的に「LINEらしさ」を追求する。カンパニーCEOが語る、EC事業の現在と未来

LINEはEC領域において、これまで「LINEらしい、LINEだからこそ目指すべきEC」を追求し続けてきました。また、Zホールディングスとの経営統合により、グループの様々な企業・サービスとの連携も進み、さらに大きく早く成長が求められる事業領域でもあります。
今回は、前編・後編の2部構成で日本におけるEC事業を統括する取締役 島村武志に、EC事業の状況やビジョン、大切にしている姿勢や考え方などについて話を聞きます。前編となる今回は、LINEのEC事業のこれまでの挑戦や現在の事業、それらへの個人的な想いなどを中心に話を聞きました。
――まずは自己紹介をお願いします。
島村
2004年にNHN Japanに入社、検索やコミュニティ事業のサービス企画を担当しました。2007年にはネイバージャパンの設立に伴って国内での検索事業の推進室長に就任し、「NAVERまとめ」の責任者などをしていました。LINEのポータルカンパニーCEOとしてメディア・ポータル事業、さらに検索事業などを統括してきました。加えて、2022年の4月にEC事業を統括するECカンパニーのCEOにも就任しました。
親会社であるZホールディングス株式会社の常務執行役員も兼任しており、Zホールディングスグループ全体におけるメディア・ポータル事業、EC事業の戦略策定も担当しています。特にEC事業においてはヤフーとの連携が大きなカギになっているため、こうした協力関係を促進するための窓口のような役割もしています。
――LINEのEC事業の概要について教えてください。
島村
ご存じの方もいると思いますが、LINEでは「LINE MALL」というサービスを提供していました。2013年の12月に公開して、2016年の5月に終了しているので約2年半の運営でしたが、BtoCもCtoCも対象とするECアプリを通じて、LINEらしいかつ新しいECを模索していました。なかなか上手くいかなくてLINE MALLは終了したのですが、その中の機能の一つとして生まれた「LINEギフト」は残って成長を続け、現在はLINEのECを牽引し象徴する存在になっています。
また、直接ECを提供するのではなく、様々なパートナー企業のECサービスにLINEからのユーザー動線を設け、その動線で商品を購入したユーザーにはポイントを付与するといった事業モデルの一環として取り組まれてきたのが「LINEショッピング」です。これはLINEとしてEC事業ではなくO2O領域として事業を進めてきたものです。
そのため、当初は私が見ていた事業ではありませんでしたが、今は組織や事業再編で私が管轄しています。LINEショッピングも新しい展開を考えているのですが、今日はまだちょっとお話できないので、また改めてお話しできる機会を持てればと思います。
LINEとして、一時期はEC事業領域全体を縮小したこともありました。LINEギフトの成長、新しいLINEらしいECサービスの構想が見えてきたこと、様々な要因がありますが会社として改めてECにアクセルを踏もうと、組織や体制、もちろんサービスづくりにも、ギアを入れ直したのが昨今の状況です。
――島村さんがECに携わってきた経緯、これまでの取り組みについて教えてください。
島村
私がEC事業について検討を始めたのは、2010年代の前半。スマートフォンの普及が加速し始めたころで、いろいろなアプリが生まれていた時代です。一気にシェアを獲得できれば勝てる時期だったし、メルカリのように個人間での取引をどんどん促進するサービスもできて、ECの構造が根本からひっくり返るかのように考えられていたんです。
でも当時から感じていたのは、本質は変わらないということ。結局「安い・早い・品揃えが多いこと」に多くのユーザーは価値を感じているし、それはスマホになったからといって変わるものでもないということです。そして、「そこ(安さ・早さ・品揃え)が勝負のポイントであるなら、LINEがやる意味はあるのか?」ともずっと考えていました。
ECで後発になるLINEが勝負できる余地はないし、アプローチを変える必要がある。EC業界からLINEに寄せられる期待も大きく、いろいろなことにチャレンジしてそのすべてが中途半端になってしまったときもありました。
一方で、過去に取り組んできたことから学んで、成功のヒントになりそうなこともたくさん見つかりました。メディア事業を中心に仕事をしてきた私にとって、物理的にモノが存在しているECの世界というのは新しい発見も多かったです。結果として、当時から考えていた「LINEがやる意味」は、再びECにアクセルを踏むことになった今も強く意識しています。年月も経ち、スマホでのマーケットも成熟してきたおかげで、あの頃と比べて解像度は上がっている気がします。
新しいEC体験を作るというのも、LINEがずっと取り組んできたことの一つです。ただ、ユーザーは「新しい体験をしたい」なんて思っていなくて、何かサービスや体験に触れたときにピュアに良さを感じるものを提供する必要があります。ユーザーインタビューをくり返してそれに応えるプロダクトを作っていくだけではなく、たとえ最初は「こんなのいらないよ」と言われても、じわじわと価値を浸透させてカルチャーを変えていきたい。
LINEアプリ自体も、最初は「メールがあるから要らない」と言われていたプロダクトだったりもするので。私個人としてもLINEという会社としても、新しい体験や価値の創造にチャレンジする存在でありたい、期待値を超えるサービスをECでも届けたいと思っています。
――LINEのEC事業として展開されているサービスについて教えてください。
島村
EC事業として歴史も長く、規模も大きいのがLINEギフトです。もう一つ、リリースに向けて先行提供中の「LIVEBUY」というライブコマース事業があります。他にも水面下で進めているものもあるのですが、今お話しできるサービスとしては、この二つかなと。コンセプトとして大切にしているのは「LINEらしさ」や「LINEならではの新しいEC体験を作り、広げていく」という考え方です。逆にいえば、コミュニケーションや人間関係などの「LINEの強み」を活かせないECにはフォーカスしていません。
LINEギフトはそういった意味で、今最も「LINEらしさ」を体現できているプロダクトですね。ソーシャルグラフや、周囲の人がこう使っているっていう環境やデータを活かしながら新しいEC体験を作っているというLINEのECの一番バッターという位置づけです。実際に会わなくても、相手の住所を知らなくても、LINEの友だちであればギフトを贈ることができる。実際のモノだけではなく、直接店舗で引き換えてもらうタイプのギフトもあって、誕生日や記念日などのお祝いから、ちょっとしたお礼やねぎらいとしても気軽に贈れます。
LINEギフトの少し特殊なところは、基本的に「買う人」と「受け取る人」が違うところ。そのサービスや商品を知らない人がギフトを贈られることで、そのショップや他の商品に興味を持って次の行動につながることもあります。人間関係のなかでブランドや商品が流通する仕組みで、もともとそのお店やモノを知っている人だけが買う消費パターンとは異なる、人との繋がりの中に自然と商品が広がっていくような構造を持っています。
LINEギフト サービスイメージ
――LINEギフトの事業としての立ち位置はどのようなものですか。
島村
LINEギフトはユーザー数や機能、品揃えなど、サービスとしてこれまで着実に成長を続けてきました。そして、Zホールディングスとの経営統合もあり、LINEの中だけではなくグループ各社からの期待も大きく、さらに急速に大きな成長があったのが2021年です。大規模なキャンペーンをいくつか行いましたし、ヤフーをはじめ各社のサービスとの連携もいろいろとスタートしました。数字も大きく伸びましたし、実りと学びの多い一年だったと思っています。
ただ、まだ山でいうと2〜3合目というところですかね。ある程度方向性が見えてきて、これまで果てしなかった山の全容というか、どのルートをどう登るべきか、そのための装備として何を準備すべきかの目星が付いたかなというところです。
これからはどんどん機能を足していくというより、ギフトを贈る体験を日常化させていくことが大切なフェーズになっていきます。誕生日や母の日・父の日といったイベントだけでなく、日々の生活のなかで誰かを「励ましたい」「元気づけてあげたい」と思ったときに、自然と使ってもらえるようにしなければなりません。
ギフトを贈る体験という面では、まだまだ改善できる余地があります。例えば現在はギフトを贈る際に画面上でメッセージカードをつけることができるのですが、実際に対面でプレゼントを受け取ったときの驚きや感動、喜びにもっと近づけたい。それはLINEギフトが届いたときのメッセージカードがもっと動的になればいいのかもしれないですし、ギフトを受け取ったときに付属してくる素敵な箱やラッピングなのかもしれない。
ギフトを贈る・受け取る場面や体験をもっと良いものにするために、日々ディスカッションをしています。LINEを介してギフトを贈るという行為を、一つのコミュニケーションの形として日常の選択肢にしていきたいですし、そうできる可能性を強く感じています。
――先行提供中の「LIVEBUY」についても教えてください。
島村
「LIVEBUY」は、配信者がライブ配信で何らかの商品の紹介をして、視聴者が質問などを介してコミュニケーションをとり、実際に商品を購入できるというライブコマースサービスです。まだ正式リリースはされておらず、2021年の秋ごろから先行提供を進めていて、出店者さんにも協力いただきながら、本格公開の準備を行っています。
繰り返しになりますが、LINEの特徴であるコミュニケーションを活かせるECの新しい形の一つがライブコマースなんです。ライブコマースは世界的に市場がすごく盛り上がっています。例えば中国だとインフルエンサーによるライブコマースは当たり前で、最近だと街に買い物に行っている様子を配信して、そこでお土産を買って送るみたいなCtoCな構造もあったり、ライブ×コマースの体験が市場を作っています。
コミュニケーションしながら物を買う。LINEとも親和性があるし、ライブ配信サービスも持っている足場の良さがありました。ライブコマースを成立させる重要な要素は、今から始めるという通知をユーザーにしっかりと届ける部分なんです。ここもLINE公式アカウントというパワーのある土台があった。
実はLIVEBUYは、ライブ事業の一環として生まれた企画で、事業部内の方針もあって公開に至っていなかったプロダクトでした。会社としてEC事業に改めて力を入れるというタイミングで、我々EC管轄組織の事業としてチームごと移ってもらって、少し設計を見直して今の形となったものです。
実はライブコマース市場は注目度は高いものの、参入してもすぐに撤退してしまう事業者も多いんです。だからこそ走り続ける体力のあるLINEがチャレンジする余地があるのですが、出店企業をいきなりたくさん巻き込むのはリスクが高い。まずは協力してくださる出店者さんと一緒に成功事例を作ってから、大きく拡大できたらと思っています。
LIVEBUY サービス紹介動画
――ライブコマース領域における、LIVEBUYの特徴とこだわりはありますか。
島村
ライブコマースの仕組みとしては、紹介された商品を買いたいと思ったら動画などに貼られているショップリンクから他のサイトやモールにあるページへ飛んで、そこで商品を購入するのが一般的です。別の手法として、出店者にあらかじめ在庫を確保しておいてもらい、ショップへ飛ばさずに決済してもらうモデルもありますが、在庫確保というリスクがあるため多くのショップはこのスタイルを好みません。LIVEBUYはあえてその後者のスタイルを選ぶことにしました。あくまでもLIVEBUYのなかでモノを買うことで、LIVEBUYだからこそ得られるEC体験をつくり出すことにこだわりました。
目の前のお客さん・店員さんと接しながらとか、友だちとお店に行って買い物をして高揚感とか臨場感とかを感じられるような、リアルな買い物に近い体験を本当にこだわり抜いて作っているんです。例えば、LIVEBUYで何かを購入したら、配信に「〇〇さんが購入しました」というような通知が表示されます。視聴者は「みんなが買っているんだ」と購買に前向きになるかもしれませんし、配信者は自分の何が視聴者に刺さったのかを知ることができます。
さらに購入者に向けて「ありがとう」と、その場でメッセージを送ることもできますよね。そこでは、普通のECのような、商品をカートに入れて決済してという行動では得られないものがたくさん作れるんです。ある種、配信者と視聴者のみんなで相談しながら買い物をしているような感覚に近いものを、LIVEBUYなら作れるのではと感じています。
実際にこの形でLIVEBUYを運用してみると、出店者さんからの評価も高く、ポジティブな声を多くいただけていますし、良い数字も出ています。今は最後の仕上げを詰めている段階で、出店者さんにスムーズかつ効果的に使ってもらうために欠けているものやサポートできることがないかなど、広く使ってもらうための準備をしています。買い物を楽しんでもらうユーザーはもちろん、出店いただく企業にも同じくらい価値を感じてもらえるサービスにしていきます。
LINEギフトに比べるとまだ歴史も浅く、いろんなトライアルの結果から学ぶことも多いフェーズですし、今後の方向性が変わる可能性もありますが、今作ってるユーザー体験の部分に自信を持っているのも事実です。今後の展開を楽しみにしてほしいですね。
――LINEギフトは"LINEのコミュニケーションの中にいかにECを取り入れていくか"、LIVEBUYは"ECのトレンドをいかにLINEで実現するか"という、アプローチやスタンスの違いを感じました。
島村
確かにアプローチは全然違うかもしれないですね。絶対このルートから考えなきゃいけないってことでもないと思っています。それはトレンドから着想を得て始めることもあれば、LINEユーザーの人間関係やそのコミュニケーションを前提に最初から考えるものもある。それぞれあってもいいかなと思っています。
今後のEC事業においても同じように、何が何でもLINEの機能の一つとして組み込まなきゃいけないってわけでもありません。やりたいことはユーザーにより良いサービスや体験を提供することなので、今後も制限せずに考えていきたいですし、この記事が出る頃には全く新しい形を思いついて進めているかもしれないですね。