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LINEでは、こうしてます。

なぜLINEはECに挑戦を続けるのか。成功への手応えとそのために解決すべき課題とは?

「LINE MALL」など数々の挑戦を経て、現在「LINEギフト」や「LIVEBUY」などの形でサービスを展開するLINEのEC事業。EC事業を統括する取締役の島村武志が語る今後のビジョンや想いなどを、前編・後編の2部構成でお届けします。

島村 武志:LINE株式会社 取締役(LINEのポータル&サーチカンパニーCEO/JP ECカンパニー CEO)


NHN Japan株式会社で検索・コミュニティ事業に携わり、サービス企画を担当。その後NAVER事業に従事し「NAVERまとめ」を統括、その後「LINE NEWS」などのメディア・ポータル事業や「LINEギフト」などの日本のEC事業の立ち上げや統括も担う。現在は、LINEのポータル&サーチカンパニーCEOのほか、JP ECカンパニーCEOにも就任し、各領域の事業を統括。

後編となる今回は、LINEがEC領域に注力する意義や目指すゴールへの手応え、今後解決すべき課題などについて語ってもらいました。

前編はこちら

――LINEがEC事業に取り組むことの価値や、必然性はどのようなところにあるのでしょうか。

島村

もちろん会社やグループとしての戦略もありますが、ごく自然な流れだと思います。FacebookやInstagramでもタイムラインにEC機能を組み込んだり、広告で収益を得ているのと同じと言えます。基盤となるサービスがあって、そこにユーザーが集まってくれて、そこでのビジネスの拡大というものを考えたときには広告事業が生まれたり、ユーザーが何かを「買う」という行為が生まれるのが自然なことだと思っています。

LINEは広告事業が収益構造のすごく大きな部分を支えている会社ですので、ECという新しい柱を確立することにとても意味があるということは間違いないですし、単純にECという市場の大きさ、GMV(流通取引総額)を考えるとビジネス的な観点の重要性は高いです。

金融事業にも注力するLINEにとって、チャージされたお金の使い道としていろいろなショップやプロダクトがあることも大切です。また、ファーストパーティーデータの重要性も高まっていますから、LINEという経済圏の中でユーザーの購買行動をデータとして所有できるのも非常に有益な部分です。

一つ私が強調したいのは、SNSが運営するECや、ヤフーのようなポータルからのECにそれぞれ違った特色があるように、LINEが取り組むECもやっぱり他のそれとは違うということです。LINEは新しいEC体験を作って広げていくことにフォーカスしているので、価格や物流スピード面などの強みは正直多くありません。

買い物って、ただ欲しいモノを安く買うだけではない楽しさがあるじゃないですか。安さや手元に届くまでのスピード、商品の探しやすさ、品揃えなど、それらに加えて「面白さ」や「特別感」など、いろんな指標があれば買い物にも多様性が生まれます。多様性はつまり豊かさだと私は思っているので、もっと買い物という行為や体験における選択肢を増やしていきたいと思っています。

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――ECカンパニーとして、ヤフーやそのサービスとの連携も進んでいると思いますが、具体的な業務の変化についてはいかがですか。

島村

例えば営業面では大きな変化がありました。ヤフー側で営業にまつわる知見のある方と協業いただき、LINEギフトやLIVEBUYでの出店営業に動けるようになってきました。ヤフーはECの歴史も長いですし、出店者さんとのつながりも多くて強いので、お声がけさせていただけるチャネルがたくさんある。こうした営業力の高さをLINEのECの戦力にできるのは、連携で得られたわかりやすいメリットだと思います。

これは経営統合とは違う話ですが、ヤフーでいろいろな事業を広く深く見てきた宮本さんという方を2019年にチームに迎え、今はLINEの執行役員とECカンパニーのカンパニーエグゼクティブを務めてもらっています。彼が入ったことで、ECカンパニーの組織としての成熟度もグっと上がったと感じています。

LINEはもともとプロダクト一筋みたいな人が多くて、ベンチャーマインドが強い企業なんです。一方で、会社が成長する上では勢いやスピードだけではコントロールできない部分も出てくるし、より正確な計画性も必要になります。そういった面をフォローできる経験やアイデアが豊富な方が増えたのは、本当に心強いです。それも足りないものを足す方向ではなく、今あるものを活かしてどう良くしていくかという視点で事業を前に推進してくれている。LINEのECが次のステージに行くために、番頭さんのような存在を担ってくれています。

あと、ECカンパニーは各サービスや関わる人の想いを持ち寄って事業や組織が育ってきている感じなんです。ビジョンなり大きい枠組みはあるけど、その中でやってる個々のサービス自体をどういうふうに作っていくのかという判断は結構任せてて、私もいろんな部署のメンバーから教えてもらうことも多い。宮本さんともよく話すんですが、関わるみんなの意思ややる気を活かしたいと、かなり強く思っています。

――EC事業のめざすゴールと、そこへ至る手応えのようなものは現状ありますか。

島村

ECに限らず 、LINEにはまだまだたくさんのポテンシャルがあるということを証明したいですね。LINEが生まれてからの約10年、スタート地点からのわかりやすい成長というフェーズは抜け出して、次のステージではどうかな?と皆さん疑問符付きでLINEを見てくれているんじゃないでしょうか。

これからLINEはどうなるのかと感じているメンバーもいるかもしれません。でも、LINEギフトが昨年大きく成長したり、LIVEBUYの出店者さんから「さすがLINEさんですね」と期待値以上の効果を実感された言葉をいただいてたりするのを目の当たりにすると、やっぱり嬉しいものです。まだまだいろんなことができると私自身も感じます。

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社会環境、LINEの周辺環境もこの10年で大きく変化していて、成功のための難易度も上がっています。市場の成熟もありますし、データ保護や求められるセキュリティのレベルも上がっていて、社会の要請に応えるために当たり前にやるべきことも増えています。組織として大きくなっているだけに動きが鈍くなった面もあるし、そこに課題を感じているメンバーもいるかもしれません。手当たり次第行動するのではなく、どこに照準を絞って動かしていくかを熟考する必要が生まれているのは事実です。

でも、私は難易度が上がるほど燃えるタイプでもあるんですよね(笑)。難しい課題であればあるほど自分が取り組む意義やおもしろさがあると思っていて、この感覚に共感してくれているメンバーたちと、まだまだチャレンジをしかけていきたいです。

――EC事業ならではの特に難しいと感じることはありますか。

島村

EC領域に限っていえば、出店者とユーザー、そしてLINEの三方よしになる必要があるというところです。人間はお金を使うときに一番シビアになり、自分の価値観に正直になります。

空き時間に何気なく動画やSNSを見ていつの間にか長い時間が経っていても、「時間のムダだった」と気に病む人はあまりいませんが、「トイレットペーパーを買ったが、隣町のスーパーのほうが10円安かった」ということに関しては落ち込んだりします。ECの難しさというのは、その商品にどう価値を感じてもらい、お金を使うというハードルを越えてもらうか。そこが、他の事業と比べたときの難しさだと思います。

解決したい課題を挙げると、オンラインにまだ対応されていない商材をLINEのEC事業でつなげることでしょうか。例えば商店街にある小さなお店や、地方にある工房の工芸品など、商品の価値を価格に表しにくいものや言葉で表現しにくいものは、既存のECにはマッチしにくい性質があります。でも買い物の本当の楽しさは、本来はそういうところにこそあるとも思っていて、商品画像とテキストでの説明だけで完結しない売り方がLINEのECならできるかもしれない。安くて便利な買い方はもちろん良いことなんですが、それとは別の選択肢として「買う」という体験そのものを楽しめるようなECを追求していきたいんです。

今、我々の頭の中にこの課題への答えがある程度揃っているかというと、そんなことはありません。まだまだ新しい形を模索して試行錯誤して、生んで育てていかなければいけないんです。

――そのために必要なものは何だと思われますか。

島村

私たちがまだ持っていない知見や専門性、自分なりのアイデアや想いがある人が、もっと必要だと感じています。「もっとこうしたらいいのに」というモヤモヤを抱えている人に、LINEという場所でそれを実践してほしい。ECはアパレルや生鮮、家具など、商材によって売り方も難易度も全く違うんですよ。一つのパッケージで何でも売れるということがなくて。

だからこそ、さまざまな領域で活躍してきた人たちが集まることでうまく回るのではと考えています。必ずこの経験が必要というより、LINEのECに活かせるかもしれない強みや経験や感性、何より自分のビジョンを持ってコミットできる人がもっと増えることが不可欠だと思います。

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――LINEのEC事業にジョインすることで、メンバーが得られるメリットはどのようなものでしょうか。

島村

LINEはEC事業を主軸にしてきた企業ではない、ということが大きなポイントになると思います。ECをメイン事業として行ってきた企業が考えるサービスと、プラットフォーマーが考えるサービスには違いがあるはずです。我々はモノを売ることに主眼を置いてきたプラットフォームではないので、ECの知見や成功のセオリーのようなものはあまり持っていない。

でも、インターネットから出発したサービスだからこそ、インターネットではどのように情報が選び取られていくのか、どのようなサービスが好まれ、また淘汰されてきたのかをよく知っています。だからこそ、プロダクトづくりにおいてはユーザー体験を含めた丁寧なつくり込みができる。この考え方をベースにサービスづくりと向き合えることが、メンバーにLINEから提供できる一番の価値だと思います。

売ることからのスタートではないからこそ、チャレンジがしやすいという環境もメリットかもしれませんね。収益や事業としての価値を前提条件にしてしまうと可能性が閉じてしまうし、だからといって収益を度外視して走り続ける体力もないケースがほとんどです。

その点LINEは体力もあるし、「面白そう」「このモデルを出店者やユーザーに提供できるといいね」とチャレンジを後押ししてくれる環境があります。LINEは「面白いものを提供できて、お客さんが熱狂してくれればビジネスは後からついてくる」という考え方が根底にあるからこそ、本質的な挑戦ができる場所なんだと思います。

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桃木 耕太

2013年にLINEに中途で入社、今は開発組織と採用組織でWebサイト/コンテンツやイベントの企画/制作などをしてます。